ぱっちりひつじ

げんじつにっき

ひつじAによる全曲解説:第9回「エレベーターにのって」

ひつじA:りょう :
Category: おんがく,ゆめ

今回の解説、すごく長くなりました。
この曲、作詞の際には、語り過ぎないように気をつけていたのです。
なので、本当は解説などするべきではないのかもしれません。
読んだ後、曲の印象が変わってしまう恐れもありますし。

でも、いざ解説となると、ついつい詳細に語りたくなってしまうわけで。。。
「それでも読んでみたい」という人にだけ読んで頂けたら、と思います。

■エレベーターにのって

アルバム中、おそらく最も異色な曲。
悲しく、そして色彩感に溢れた夢だったので、
曲のほうも、自然にそういった感じになりました。
他の曲は、遊び心やアホらしさ、かわいさなどを必ずどこかに盛り込んでいるのですが、
この曲にはそれがありません。
というか、入れる余地がなかったのでした。





生きていくことに疲れ果て、
世の中の全てのものが嫌いになってしまった少年。
そんな「僕」が唯一救われる場所は、秋の公園でした。

紅葉した木々に囲まれ、そこら中に赤い葉っぱが落ちているのですが、
その中の、ひときわ沢山の葉っぱが積もっている場所に、
なぜか古びたエレベーターが設置してありました。
使われている形跡も無く、色褪せた感じでしたが、
まだ電源は通じているらしく、階数表示の「1」のところがオレンジ色に光っています。

そのエレベーターを見た瞬間、ふっと心が楽になるのを感じました。
初めて見たはずなのに、まるで昔からの友達に会った時のような感覚。
そのとき、エレベーターが僕の心に語りかけてくるような感じがしました。
「やっと出会えたね、僕も世の中がイヤになってしまって。
新しい世界へ行きたいんだけど、誰かがボタンを押してくれないと、自分独りでは動けないんだ。
だから、君がボタンを押してくれないかな?」と。

迷うことなく僕はエレベーターに乗り込み、地下1階のボタンを押しました。
その階は、「僕」以外の全ての人々が消え去り、新しく生まれ変わる世界。
イヤなものが全て無くなり、全てをやり直せる世界。
誰に教えられた訳でもなく、そのことは分かっていました。
「これに乗れば、理想の世界へ行ける。
このエレベーターも、きっと、そこへ一緒に行きたいんだ」
そのときは、そんな勝手な思いを抱いていました。

動き出すエレベーター。
機械の振動音を感じながら僕はワクワクし、静かな旅を楽しんでいました。

しかし。

しばらくそうしていた後、行き先のランプがふっと消え、
別の階(10階だったか20階だったかは定かではありませんが)のランプが点灯しました。

僕は焦りました。
なぜならその階は、「僕」以外の人々が生まれ変わる階ではなく、
「僕」の存在だけが消えてしまう階だったからです。
そして、一度そこに着いてしまうと、もう帰ることはできません。
(これまた、誰に教えられた訳でもなく分かっていました)

「どうして!?」と僕は叫びますが、
エレベーターは黙ったまま、何も語りかけてきません。
動き続けるエレベーター。
降りていっているのか、昇っていっているのか、よくわからない感覚。
でも、そうしているうちに、僕にはエレベーターの気持ちが分かってきました。

そうか、君は自分の存在を消してしまいたいんだ。
僕以上に傷ついていて、もはや何の希望も残ってはいない君。

彼と僕は、今や一心同体。
僕が消える世界に行けば、同時に彼も消えることになる。
自分では叶えられない望みを、僕を利用して叶えようというわけか。
僕の存在を消してでも、自分が消えてしまいたいという望みを・・・。
なるほど、そのチャンスをずっと探していたんだね。

裏切られたような、少し切ない気持ちになりましたが・・・。
ようやく出会えた心を許せる友達、その彼の理想を叶えてあげられるのは僕しかいません。
それならば、と、僕は心を決め、彼の決めた行き先に、一緒に付いていくことにしました。

それからどのくらいの時間が経ったかはわかりませんが、
どこかとても遠い場所に向かっていることだけは分かりました。
お互い一言も言葉を交わすこと無く、ただ静かな時間だけが流れていきます。
最後の瞬間に向かう、不思議と満たされた感覚。

そして、ついにエレベーターの振動が止まりました。
ゆっくりと開くドア。
まぶしい白い光が差し込む中、僕とエレベーターは細かい粒子状になって、
光と共に四散していき・・・
そのとき、僕は自分が涙を浮かべていることに気が付きました。
後悔なんてしていない、でもなぜこんなに悲しいんだろう・・・





と、ここで覚醒。

赤い落ち葉の鮮烈な色彩、エレベーターの感情、
そういうものが目覚めた後もどどっと押し寄せてきて、
布団の中でしばらく動けませんでした。

そして、四散したと思われた自分の体がまだここにあることを噛み締め、
この夢は絶対に覚えておかねばならないという、
使命感のようなものを感じていました。
起床後、すぐに歌詞が出来て、曲もアレンジも一日とかからずに仕上がったのですが・・・。

ぱっちりひつじの楽曲として成立させるにあたっては、かなり苦労しました。
メンバーにデモを聴かせたとき、ひつじE:ゆう から言われた言葉。
「この曲に、男ボーカルを入れる余地は無いよ」と。
ツインボーカル編成のバンドとしては、それで大丈夫なのか?と思ったわけです。
曲調もシリアスだし、そのうえ編成まで違うなんて、と。

でも、ひつじD:きょうせい の「気配で参加したら良いんじゃないかな?」という案で、
全てが解決しました。

もの言わぬエレベーター。
その役をひつじEにやってもらう。
歌うのではなく、ただ静かに呼吸している音をマイクで拾い、
その音をこっそり混ぜ込む。

そんな手法をとったわけですが、これがかなり功を奏しました。
ヘッドフォンで聴いても分かるか分からないか程度ですが、
入れる前と後では明らかな違いがあって、ミキシング作業中にはだいぶ興奮していました。
ちゃんと、ぱっちりひつじのメンバー全員で作り上げた楽曲として
成立させられたんじゃないかなと思います。

あと、場面展開に合わせてボーカルのマイク距離を調整し、
主人公である「僕」の存在感に強弱をつけたりと、
レコーディングの際にもいろいろ実験してます。

・・・とまあ、色々書きましたが、
この曲に関しては、ただ静かに情景を思い浮かべてじっくり聴いて頂きたいなと思います。
何かしら、この物語が聴いてくれた人の心に残ってくれたら、本当に嬉しいです。